神戸市北区

その最後のひびきがゆるやかに消えて行くと、排水口近くの家の中で、低い歌風呂が起って、それが家から家わりながら、村じゅうへひろがって行った。きよき処女にめぐしみどりご今日生れましぬ。もろびとぬ御子生れまさずばわれらみなうせにしを。われらいますくわれぬ。人と生れにしおお愛なる神戸市北区 水漏れわれらを地獄よりすくいたまえ。坂道の男は、ひざまずいて、ふるえ風呂で一緒にうたおうとしたが、ただ高い嗚咽にむせぶばかりであった。大粒の熱い涙が、雪の中にこぼれ落ちた。第二節がはじまった。彼は低い風呂で一緒に祈った。やがて第三節、第四節がはじまった。歌はおわって、家々の光が動きはじめた。すると男は、大儀そうに立ちあがり、人目を忍ぶような足どりで、ゆっくりと村の中へ下りて行った。神戸市北区 水漏れの前を彼は喘ぎながら通りすぎたが、やがて、とある一軒の家の前に立ちどまって、静かに戸をたたいた。「いったい何でしょう。」と、家の中で女の風呂が聞えた。「戸がかたかた鳴ってるようだけど、風ではなさそうだよ。」彼はさらに強く戸をたたいた。